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2022年1月24日
インフルエンザウイルスのゲノムRNA取り込み機構の解明

宮本翔1、村本裕紀子1,2、神道慶子1、藤田陽子1,2、森川毅1、田村涼馬1,2、Jamie L Gilmore1、中野雅博1,2、野田岳志1,2

1 京都大学 ウイルス・再生医科学研究所 微細構造ウイルス学分野
2 京都大学 大学院生命科学研究科 微細構造ウイルス学分野

Contribution of RNA–RNA interactions mediated by the genome packaging signals for the selective genome packaging of influenza A virus

Journal of Virology. (online ahead of print)
DOI: https://doi.org/10.1128/JVI.01641-21

概要

インフルエンザウイルスのゲノムRNAは8本に分節化している。ゲノムRNAの分節化は遺伝子再集合を容易にするため、インフルエンザウイルスの進化に利点を与える。一方で、子孫ウイルス粒子が増殖能を獲得するためには、8種類のゲノムRNA分節を全て取り込む必要がある。8種類のゲノムRNA分節が選択的に子孫ウイルス粒子に取り込まれることは我々のこれまでの研究で明らかになっていたが、その詳細なメカニズムは不明であった。そこで本研究では、ゲノムRNA分節が子孫ウイルス粒子に取り込まれる際に必要な「パッケージングシグナル配列」に着目し、あるゲノムRNA分節と他のゲノムRNA分節が「パッケージングシグナル配列を介して特異的に相互作用する」ことで子孫ウイルス粒子に取り込まれるのではないかという作業仮説を立て検証した。

インフルエンザウイルスのヘマグルチニン(HA)をコードするゲノムRNA分節のパッケージングシグナル配列にサイレント変異(アミノ酸変異を伴わない変異)をもつ変異ウイルスを複数作出し、ウイルス増殖能が低下した変異ウイルスを1株得た(本変異ウイルスはアミノ酸レベルの変異を持たないため、ゲノムパッケージングの際のRNA分節間相互作用の減弱によりウイルス力価が低下したと予想される)。本変異ウイルスを培養細胞で継代したところウイルス力価が回復したことから、HA分節と他のRNA分節との相互作用が復帰した(その結果、ゲノムRNAの取り込み効率が復帰した)と考え、ウイルス力価回復後の変異ウイルスの全ゲノムRNAを解析した。その結果、HA分節およびウイルスポリメラーゼをコードするPB2分節のパッケージングシグナル配列にそれぞれ点変異が挿入されていることを見出した。これらの変異はHAタンパク質やPB2タンパク質の機能には影響しなかった。そこで、ウイルス粒子内に取り込まれたゲノムRNA量をqRT-PCRで解析したところ、継代前の変異ウイルスではHA分節の取り込み効率が低かったのに対し、継代後の変異ウイルスではその取り込み効率が有意に回復していた。また、これらの変異をもつ組換え変異ウイルスをリバースジェネティクス法により合成し、各ウイルス粒子内のゲノムRNA量を解析したところ、HA分節の効率の良い取込みにはHA分節とPB2分節のパッケージングシグナル配列に導入された両方の変異が必要であることを明らかにした。さらに、試験管内でHA分節とPB2分節のパッケージングシグナル配列からなるRNAを合成し、ゲルシフトアッセイにより相互作用を解析したところ、HA分節とPB2分節が直接相互作用することを確認した。以上の結果から、HA分節の取込みには、パッケージングシグナル配列を介したPB2分節との直接的なRNA-RNA相互作用が重要であることを明らかにした。本研究により、8種類のゲノムRNA分節が選択的に子孫ウイルス粒子に取り込まれるメカニズムの一部が明らかになり、インフルエンザウイルスの増殖機構の理解が大きく進んだ。

左図:2種類のゲノムRNA分節が互いのパッケージングシグナル配列を介して相互作用し、子孫ウイルス粒子に取り込まれるモデル
右図:変異によってゲノム取り込み効率が低下したウイルス粒子横断面の電子顕微鏡像