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2022年1月6日
インフルエンザウイルスのゲノム合成装置形成機構の解明

宮本翔1、中野雅博1,2、森川毅1、平林愛1,2、田村涼馬1,2、藤田陽子1,2、廣瀬奈々美1,2、村本裕紀子1,2、野田岳志1,2

1 京都大学 ウイルス・再生医科学研究所 微細構造ウイルス学分野
2 京都大学 大学院生命科学研究科 微細構造ウイルス学分野

Migration of influenza virus nucleoprotein into the nucleolus is essential for ribonucleoprotein complex formation

mBio 13(1):e03315-21. (2022)
doi: https://doi.org/10.1128/mbio.03315-21

概要

インフルエンザウイルスは他の多くのRNAウイルスと異なり、感染細胞の核内でゲノムRNAを複製する。核内で複製されたゲノムRNAは、ウイルス核タンパク質(NP)およびRNA依存性RNAポリメラーゼ(PB2, PB1, PA)とともに、二重らせん形のRNA-核タンパク質複合体(ribonucleoprotein complex, RNP)を形成する。RNPはゲノムRNAの複製や転写を担うゲノム合成装置であり、感染細胞の核内でゲノムRNAの複製と同時に形成される。しかし、感染細胞核内のどの領域でRNPが形成されるかは不明であった。

本研究でははじめに、ウイルス感染細胞におけるNPの細胞内局在を経時的に解析した。NPは感染初期から中期にかけて核小体に一時的に局在することが認められた。この核小体局在は様々なインフルエンザウイルス株で観察されたことから、インフルエンザウイルスに共通の現象と考えられた。NPの核小体移行の意義を明らかにするため、NPの核小体移行シグナルに変異を導入した変異体を作製し、ウイルスポリメラーゼとゲノムRNAとともに哺乳類細胞に発現させ、RNPを再構成した。野生型NPの場合と異なり、変異型NPを用いてRNPを再構成した場合はウイルスRNAがほとんど転写・複製されなかった。変異型NPから構成されたRNPを精製し、高速原子間力顕微鏡で解析すると、野生型RNPが二重らせん形構造を形成するのに対し(図B)、崩れた構造を示すことがわかった(図A)。次にRNP形成における核小体の重要性を確かめるため、ウイルス感染細胞の核小体構造形成を阻害薬により一時的に阻害した。この感染細胞から分離したRNPは、核小体移行シグナル変異型NPを用いて再構成したRNPと同様の崩れた構造を示しており、感染細胞における転写・複製やウイルス増殖も顕著に阻害されることが明らかとなった。

今回の結果から、機能的なRNPの形成にはNPの核小体移行が必須であることが実証され、核小体がインフルエンザウイルスの核内複製において重要な役割を果たすことが明らかになった。インフルエンザウイルスのゲノム複製の正確な場は未だに不明であり、本成果はその核内複製機構の理解を進める重要な知見となる。

(左図) ウイルス感染細胞核内におけるRNP形成モデル

ウイルス感染細胞の細胞質で翻訳された新規NPは核内に移行した後、さらに核小体へ移行する。核小体移行したNPはRNA依存性RNAポリメラーゼとウイルスゲノムRNAと共に、二重らせん形のRNP(B)を形成する。一方で、核小体移行シグナルの変異型NPや核小体構造形成阻害下のようにNPが核小体移行できない場合は崩れたRNP構造(A)となる。

(右図) RNPの高速原子間力顕微鏡解析

  1. NP核小体移行の阻害下で二重らせん構造を形成できない崩れたRNP。
  2. 二重らせん構造を形成したRNP。