研究分野
大規模オミクスデータの統合解析
現代の分子生物学は膨大かつ高次元なデータを生み出していますが、データそのものが直ちに生物学的知見をもたらすわけではありません。当研究室では、大規模データから意味のあるパターンを抽出するための計算科学的・バイオインフォマティクス手法の開発と応用に取り組んでおり、特にシングルセルおよび空間トランスクリプトミクスに重点を置いています。さらに、異なる組織や条件にまたがる多様なオミクスデータを統合することで、細胞の空間的組織化や相互作用、さらには健康および疾患における全身的応答を規定する原理の解明を目指しています。
大規模オミクスデータにおける構造的な遺伝子発現パターンの解明
現代のオミクス技術により、数千の遺伝子と多数のサンプルにわたる大規模な遺伝子発現データが得られるようになりました。これらのデータには豊富な生物学的情報が含まれていますが、事前の仮定なしに意味のあるパターンを体系的に同定することは依然として困難です。そこで我々は、singleCellHaystack(Vandenbon and Diez, Nature Communications, 2020)を開発しました。本手法は、シングルセルや空間オミクスを含む高次元データから、構造的な遺伝子発現パターンを検出するためのバイオインフォマティクス手法です。得られたパターンを組織やサンプル上に対応付けることで、さまざまな条件における生物学的に重要な遺伝子活性の体系的な発見が可能となります。図には、マウス肝臓(左)、ヒト腸(右上)、マウス脳(右下)の代表例を示しています。

DeepSpaceDB:空間トランスクリプトミクスデータの可視化・統合解析基盤
空間トランスクリプトミクス技術は、組織内における遺伝子発現を高解像度で可視化することを可能にしますが、実験コストが高く、データ解析には高度な計算科学的専門知識が必要です。そのため、既存データの有効活用や横断的な解析は依然として容易ではありません。そこで我々は、公開されている空間トランスクリプトミクスデータを収集・標準化・統合するデータベースおよび解析基盤であるDeepSpaceDBを開発しました (Honcharuk et al., Nucleic Acids Res. 2026)。DeepSpaceDBでは、専門的なバイオインフォマティクスの知識がなくても、遺伝子発現パターンの探索、サンプル間比較、インタラクティブな解析が可能です。図には、データ処理パイプライン(左)、3,000以上の空間データの統合(中央)、および代表的な解析機能(右)を示しています。





